死んだ事もないのに死ねる筈もないのにね、それでも僕は死にたいしてある種の希望をもっているんだ

 僕は人生がうまくいかない。みんなと同じように考える事が苦痛でしかたがない。僕の文章も精細さを書きはじめてしまった。僕は文章でいくらでも高尚な理想を掲げもした、今僕は社会に負けようとしている。悔しくて体から涙が目にたんまりと浮かんだ涙を。僕は不幸だ。不幸を避けてきたから不幸なんだ。幸福を争って手に入れる不幸を軽蔑下固めに幸福から僕は遠ざけられ僕は月の洩る晩に誰もいない公園でペットボトルの水を一気に飲む。歯が痛む。マンションに囲まれたこの公園の砂場には僕の他に無数の幽霊が彷徨い歩いていた。倦怠と、次の日の退屈と、そしてこの夜にふさわしい月を見届け僕だ。

 美しい季節がすぎて、平凡では決してない毎日にいらだち僕は先の不安から死にたくもなったのだ。芥川が死んだのは、彼の義理の兄が死んだ為に12名の人間の世話をみなくちゃならなくなったためだと言われている。其れが直接の原因であるはずがないが、彼を追い込めるひとつの動機になったのだろう。彼にとっては都合がよかったのかもしれない。死にたがっていた彼の気持ちによい動機を与えたのかもしれない。義理の兄の自殺が、誰かを自殺に追い込んだのだ。神様は自殺した人間をも救ってくれるのだろうか。

 ベートーベンの月光の道をうつむき加減に歩きながら、かつて愛した人達の幸せに、どうしても喜べない影のある僕の心は月の光に隠れる。