アウトプット

相手の視点に立ってみよう

裸の女

 裸の女が突っ立っていました。ここは、高速道路の横を走る狭い道路です。山奥にあるため、この場所に来るような人間は林業にでも携わっている人間でしょう。そこに、陰毛を野放しに生やした女が、立っていました。眼光は鋭く、こちらが近づくのをためらわれましたが、私は車に乗っていたのでなんとも怖い感じを受けることはありませんでした。いざ、女が隠したナイフを持って襲いかかってきたとしても、鍵を自動ロックにしたので大丈夫だと一安心したのですが、考えれば裸の女にナイフを隠す場所もありません。あるとしても、とても痛くて耐えきれないでしょう。それとも、女はマジシャンで喉の奥に刀を飲み込んで隠しているかもしれません。

 女はちっとも欲情させませんでした。ただ、このあたりは鬱蒼とした山が広がります。高速道路の沿線ですから、女は太陽に当たった小麦色の肌を私の網膜に映し出しているのです。森に隠れて女を襲うこともできるでしょう。しかし、濡れてもいない女を濡れさせようとするほどの欲情も起こさせないこの女になんと声をかければいいのか私にはわかりません。もしかすれば、欲情が起きるのを待っていたのかもしれません。

 次第に、女はこちらに歩いてきて車の横に来て運転席の窓をノックしました。私はドアを開け、彼女に声をかけました。

「寒いですね。中に入りますか」

女は、こくんと、はっきり頷き鋭い眼光も無くなりました。助手席に回って女がドアを開けようとしましたが、ロックがかかっていたので開けられませんでした。ちょっと待ってと、女に言って僕はドアのロックを開け女が助手席に座りました。女の体を僕はろくすっぽまともにみられません。欲情していないというのを彼女にわからせるためです。それは、女のよくする手段である、気のありそうな男に嫌いだというためにみせる決して男に読み取られることのないメッセージと同じです。男は、すべての女のメッセージを好きなように読みます。

「服着てないから、びっくりしたでしょ」

 急に笑って、女は私に話しかけました。

「いえ。大丈夫です」

 なんの意見も言葉に言えない僕ですから、こう返すのが精一杯で、確かに、一番素直な気持ちでもありました。欲情もしていないし、まして、女が明るい舗装された林道に立っていても不思議はないと思えるくらい、私のふつうの反応は死んでいるのです。

「ホテルいこっか」

 願ったり叶ったりです。何もここで紳士ぶることはない。女の方から誘っているのだから、いいだろうと思うのです。しかし、女は男から誘われたいもの。女は、男から女として見られたい。なぜ、そうなのでしょう。女の承認欲求がなければ、もっと男と女は平和に生きられたのではないでしょうか。

「どこか知っている場所ありますか?」

 私は、ただドライブがしたかった。でも、助手席に裸の女を乗せて街を走流のかと考えると、あまりいい気がしない。何か、変なやつだと思われる。実際に、変な奴だ。変な奴にはなりたくない。でも、自由な感じがしました。裸の女を助手席に乗せて新宿を走る。しかし、考えただけで飽きました。僕の悪い癖は、考えて行動をやめることです。考えるとは、ただ行動したくないだけの言い訳でもあり、行動の拒否でもあります。考え方にもよるのでしょう。

「わたし、あなたとエッチしたいの。濃厚な。でも、あなたって一回いったらもうだめそうね。しおれちゃいそう。それでもいいわ。わたしのからだをみて、いっぱいきもちよくなってほしいの。ねえ、わたしを抱いて。抱いてくれたらお金あげるわ。病気なんてもってないから安心して、わたしをだいて。抱いてくれたら、私なんだってするわ。なんだってするから、抱いてよ。私を抱かないの?どうして、あなたの顔なんだか嫌そうよ。男の人って、女の体を見ると気持ちよくなるんでしょ?興奮するんでしょ?そうじゃなかったら、男じゃないわよ!どいつもこいつも、わたしのことを女だとおもっていないんでしょ!いったいどうしろってのよ。わたしは性別は女よ、肉体も、医学も女として処理されているのに、なんだかちがうのよ。わたし、女っぽくないって言われるのよ。たぶん、アメリカに行けばいいんだわ。そしたら、すぐに股を開いて男が入れてくれる。女だって、すぐに思える。自分が、すぐに承認されるんだわ。アメリカって素敵な。それに比べて、この国何よ。フェチだとか、パンチらに萌えるとか。ほんと不寛容な社会よね」

「そうですね、女の子が絵になってそれがエロくて漫画になりコンビニに売ってあってもぜんぜん規制されませんからね。絵ならいいんでしょうね。絵なら何をしてもいいっていうことで、それは、何を言ってもいいというのと同じでしょう。でも、言葉が空想になって現実を全く変える力がありません。この国が変わるのは、雰囲気で変わります。ひとりひとりの存在意義も、周囲からの承認で変わります。私がどう思うのかではないのです、周りからどう思われるのかが私が思うことなのです。ですから、責任はありません。自由です、と言いたいとことですが、責任さえ問うことができないのです。悪いのは制度だ、教育だとなります。アメリカはどうか知りません。ただ、彼らは文化的に自己主張が大事だと言います。しかし、その自己主張も説得力を持たせるためには、文化的背景と世間の雰囲気が必須でしょう。彼らは本当に、自己を主張しているのでしょうか」

「そうね。ただ、自分の主張を重んじられる雰囲気はあると思うの。この国は違うでしょ。周囲の、瞬間的な多数決で主張の是非が問われる。そこに、違う主張が来るわけではない。つまり、コミュニケーションがオートメーション化されているの。私か裸で路上に立っていれば、この国では気が狂った女なの、でも、アメリカではやりたがっている欲情した女なのよ。私はアメリカがいいのよ」

女は、泣き出した。彼女はこの国を恨んでいるのか、それとも、この国に合わせられなかったのを悔やんでいるのか。そのために、ためておいた涙が押し流されてしまったのか。僕は彼女がとても可愛く思えた。でも、やっぱりやりまんだと思った。それでも、この裸の女を愛せるならば、本当の愛だと思えが。好きになるのは、簡単だ、嫌いなところを見なければいい。でも、嫌いなところも好きになるのなんだろう。お笑いだろうか、愛だろうか、それも、好きだという嘘だろうか。相手から好きになられたら、そのままの自分でいようと思ってしまう。変われば、相手は僕のことを嫌いになるという都合の良い解釈をして、自分の悪いところも好きにならなくちゃと相手に負担をさせる。

「あなたって、変な人ね。裸の女を助手席に座らせておしゃべりするなんて。他の男たちは、私にたくさんいやらしいことしてしまいには逃げるように帰って行ったわ。男はそんな奴ばかりだって、私思いたくて、だから、裸なの」

 女もまた自らの正しさを証明したくて不幸に飛び込んだのだ。それは科学的だ。科学では証明されれば、それが正しいとなる。

「あなたって、優しいのね」

 僕は屈辱の中にいる。優しい男は女に嫌われる。最初はね。僕は女を外に連れ出し、地面に突き飛ばした。そんなことをしたくなかったけれど。女はそれを望んでいるように思った。そして、僕のいきり立った突起を女の湿地に入れた。ローションを塗りたくったように女のあそこは濡れていた。