アウトプット

相手の視点に立ってみよう

妄想

沙織「私ほんと嫌になっちゃう。もうなんだかわからない」

秀「どういうこと?」

沙織「もう何も考えるのが嫌なの。だって、なんにも感じないんだもん。恐れだとか痛みだとか。神秘的なことばっかり最近考えてるの。科学的なことにうんざりだわ」

秀「僕も科学にはうんざりだ。科学は狭い視野に人間を押し込めて安心させる装置でしかない。実際に飛行機で飛ぶよりも、夢の中で自分が飛ぶ方が快感がある。科学は享楽に歯止めをかけるね」

沙織「私、多分もう科学っていうのが相対化されていると思うの。でも、実証主義も嫌いじゃないのよ。実証主義自体を実証してみて欲しいの。それで、矛盾が出たとしたら面白いじゃない」

秀「矛盾が出てくるまで探求することだね。わかってるふりっていうのは、不自由だよ。わからないっていうのが一番魅力的なんじゃないかな。わからないから楽しい。難しいっていうのはわからないっていうことだよね。やっぱり、探求すること自体が目的で決して結論の価値には一文も値打ちがないと思うんだよ。僕は経済と学問を絡めるのには反対だな。学問は経済じゃない。経済っていうのは金に変換できる。でも、探究心はお金に変えられない。市場の外にあるんだよ」

沙織「世の中金だっていうけど、それを受け入れて何も考えず金を稼ぐだけの脳みそを作っちまえば、本人が金の奴隷になって自由を失うってことかな」

秀「探究心はお金で買えないんだよ。ある学問をするときに人間は自分の興味よりも自分が将来お金になるようなことをしたがる。学者が嘆いていたよ。今の学生は、大学の先生になりたいんだって。職業としての大学の先生になりたいってことだよ。つまり、ポジションが欲しいんだな」

沙織「動機があまりにも不純だね。それを大人だとか言って曖昧にごまかして正当化しているけれどおかしいんだよね。おかしいことを誰も指摘しないから今の時代は平和なのに閉塞感がある。平和ってなんなのかわからなくなってきたよ」

秀「平和って何かな。僕には平和っていうのは兵士が街を歩いていないことだと思うんだ。銃を向けられることがない。それが平和だと思う。でも、いつ何が起きてもおかしくないっていうのは平和な時も戦争の時も変わりはしないんだよ。戦争の周りには死が転がっているから、生きている事が不思議に思えるんだよな。生きているっていうのが神秘だと思うんだ」

沙織「今のメディアはひどいね。メディアなんてこりごりだよ。噂話に噂話を重ねてありもしないことを喧嘩して本当の事実にしちゃうんだから。どうしても、せこい貧乏人みたいなやつの欲望がいいツラしているのに騙されっちまってるんだろうね。学問が足りないよ。金の話ばっかりじゃ面白くないよ。ないものだろ?金がたんまりあれば金の話なんてしない。ないものをねだるっていうあの気持ちは貧しいね。実に貧しい。だから、嫌なんだ」

秀「お金がないのはみんなそうなんだ。お金もう入りませんということにはならない。あっても欲しいし、なくてもほしい、それがお金じゃないかな。お金で物事を見ると世の中は安定するけれども、面白くないね。ちっとも。親だって子供に試験ばっかり受けさせて塾漬けにさせるだろ。あれが一番良くない。もちろんいい先生もいる。でも、大抵は点数稼ぎだ。自分が勉強する気がないから、先生に引っ張ってもらって勉強しているんだよ。その子のしたいことをさせればいい。もちろん、それは本当に難しい。子どもこそメディアの影響を受けて大人の価値観をみっちり詰め込んで頭が硬直化しているからね。メディアは本当に子供に良くない。一生をかけてニュースとやらをなくせばいいと思うんだ。国民を巻き込んだ議論なんてただの思考停止に過ぎない」

沙織「これからどうなるんだろうなんて知ったこっちゃないんだよね。毎日の積み重ねが大事なんだよ。毎日を充実して過ごすのが本当の自由のためには必要なんだ。ダラダラしているから、仕事も不満たらたらなんだよ。本当に充実した過ごし方を身につければ、そんなダラダラした仕事は無くなるんだ」

秀「あと、付け加えるとユーモアを前提に話すのはおかしいね。もうこの話自体がユーモアでもあるんだ。笑おうと思えば笑える。でも、こらえて話し続ける。すぐに笑いに持っていこうとする。ツッコミを入れようとする。それじゃ、どこへも行けない。ツッコミが勉強の基本だというけれど突っ込むためにはこだわりが必要だ。自分の価値観が必要だ。でも、それに執着するのはいかがなものか。執着が一番良くない。でも、執着しなくちゃ見えてこない。でも、執着していたら執着が目的になる。探求と執着の違いは、対象に言葉を投げかけてみることだね」

沙織「本を読んだら、その本に言葉をかけてみるんだ。美しい花を見たら、言葉を投げかけてみるんだ。ニュースを見てもそう。私たちは互いに無関心だけど、それで居心地もいいけれども、別に互いに関心があっても居心地はいいと思うんだ。今の自分の気持ちが環境の結果だと考えすぎているんだよ。そうじゃない。気持ちがいいから、どんな環境でもいいんだよ。環境なんて見せかけだよ。言葉を投げかけなくちゃ環境っていうのはずっと君におしゃべりしてくるんだ。金閣寺なら、俺ってピカピカだろ。お前らバカだなっ、網膜やられっちまえとか思っているかもしれない。でも、それを思っているのは自分なんだ。私なんだ。金閣寺を見て、綺麗と言った時そこには自分がない。環境が隣でずっと喋ってくることをそのままリピートしているだけなんだ」

秀「環境はおしゃべりだね。うるさいくらい。だから、静かなんだろうね。静かっていうことは本当に環境が皆に沈黙だけれども強烈な決まりごとを押し付けているんだからね。よく幻聴とかさ、風景が語りかけるとかいうけれども、それを実際に聞いちゃうことってなくても、なんか話しかけてるなって思うときってすごく少ないけれど経験としてあったんだよね。景色が話しかけてくる。景色がね、キラキラしているんだよ。なんのよごれっちまったありきたりな言葉を剥ぎ取って、新鮮でみずみずしいんだよ」

沙織「旅行の良さはそこだね。みずみずしい感性を持った人たちと偶然出会うっていうのはすごく素敵なことだ。しかも、それが一回生だからすごくいいんだ。ラインとか交換しちゃうともうダメだね。すぐにヘドロになっちゃう。偶然っていうのが人間を清めるんじゃないかな。同じ習慣をやっていても人間は落ち着きはするけれども、それは感情がなくなったというだけじゃないのかな」

秀「さみしいだとかいう人がいるじゃん。さみしいやつに誰がついてくるんだよっていう話でしょ。その人はさみしいって気持ちしかもっていない。それしか受け皿がないんだよ。そりゃ人こないよ。いろんな窓口を作ってあげなくちゃ。いつもけん玉ばっかりして遊ぼうっていってくるやつとおんなじ。けん玉以外にも興味を持ってくれ!ってことをいいたいね」

沙織「そうそう。でもさあ、さみしいときはさみしいじゃんとかいってくるじゃん。もうそういう会話のテンプレと流れが面白くないんだよね。会話が発展しないんだよ。ただの社交辞令でしかない時にもう一体どうすりゃいいんだか。話を変えるっていうの大事なんだけど、それはテクニックじゃないんだよ。自由なんだよ。テクニックとしてやっているんなら、ダメだね。もたない。話を変えるテクニックを知っているが故に、もうそのテクニックが煩わしくて使いたくなくなってくるね」

秀「そして、最後にまとめとこなくちゃならない。それってもう話が尽きたってことでもなくて、永遠にこの話は続いていくんだよね。結論をいつまでもいつまでも先延ばしにしてわからないことを探求していくしかないんだよ。本当にそうなんだよ。テンプレートな答えを知ってもダメ。そんなの微々たるもの。そんなのに納得するうようになっちゃ危険信号だね。多分、いい暮らしっていう与えられた価値や評判にしがみついて自分を失って本当にいい暮らしっていうのを忘れて生きるのは、酷だね。地獄とは安住だね」

秀は眠りについた沙織を横目で見ながら最後の話をした。