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轟音の高架橋の下、僕は女の子と待ち合わせのところへ向かっていた。日暮れの上野駅中央改札口まで歩いていく。手帳を持った肌の浅黒い女が近づいてきた。女は手帳を開き子供たちの集合写真を見せた。学校を作りたいらしい。僕は財布から千円札を取り出し女に渡すと、名前を聞いてきた。名前の横の欄に「1000」と、女は書いた。他にも数十人の名前を垣間見た。学校ができたら是非僕の名前を校門に入れて欲しいと言うと、女は「オーケー、オーケー」とにこっと笑い、他の人のところへ行ってしまった。
女が歩いてきた。リュックサックに長めのスカート、彼女だ。会うやいなや僕は彼女に小突かれた。着ている服が気に入らないらしい。少し歩いて、明るい通りへ入っていく。一様にジャケットと長いパンツを履いた男たちが酒を飲んでいる。立ち飲み屋の店員は愛想がなく、愛想がいいのはやっぱり浅黒い腕をTシャツから出した女の子だった。
「ハイボールふたつ」
女はそれを聞くと、僕の言葉を真似した。そして、男たちの立ち込める混み合った店の奥に消えていった。
「お店のハイボールは薄めるから嫌いなんだ」
「なら頼まなきゃいいじゃないの」
そう言うと、カバンから財布を取り出し小銭を用意した。僕も慌てて千円札を取り出しテーブルの上に置くと、扇風機の風がお札をテーブルから羽ばたかせた。力なく落ちようとするお札を、床に落とすまいと脊髄反射で手を動かすとお札をかすめもせず力強くテーブルを叩いた。
「力加減もわからないの」
女は目をぐるりと回して、口をだらんと開けあきれて不機嫌な顔になった。
「帰ろう」
頼んだハイボールを置き去りにお店を出て歩いて家に向かった。